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その日、刈羅健志は朝から妙な気配を感じていた。天候が雨なのか晴れなのか、暑いのか寒いのか定まらなかったり、ご飯が炊けていなかったり、いつもジョギングをしているサラリーマンが今日に限っては歩いていたり。
その妙な感じは学校に到着してからも変わらなかった。
みんなどこかそわそわと落ち着かない。
担任の先生が、プリントを職員室に忘れてきた。
売店がピザトーストの発注量を間違えた。
女子と男子が全く会話をしない。
「おい、刈羅」
「ん?」
健志に声をかけるのは、同じ水泳部の山科楓太。同じ中学出身で同じクラスなのは彼だけだ。丸刈りに近い短髪で一重まぶたの身長180センチは、町歩きにはいい用心棒になる。健志は足には自信があるものの、喧嘩の経験はほとんどない。
「今日さ、転校生が来るんだってよ」
「ふうん」
転校生が来るというものは在校生にとっては程よいイベントで、その日一日期待に旨を弾ませて、しかしその昂揚感も下校のころには収束する。
「誰が来るか知ってるか?」
「転校生が来ること自体、いま知った」
「驚くなよ? 池良美乃だ」
「池良美乃? なんか聞いたことあるような名前だな」
「あたりまえだろ? お前。スプレンドのボーカルじゃん」
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