【夫婦】

2/21
290人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 その村に盗賊が現れるようになったのは、二月前のことだった。三助(みすけ)が所帯を持って6日目の日だ。  険しい山々に囲まれ、山道の少ない村に旅人が通ることは稀であり、まさか盗賊が襲ってくるなんて誰も思っていなかった。三助も同じで、いつものように妻の幸(こう)と畑を耕していた。  盗賊の人数は30人。馬は連れておらず、己が持つ様々な武器と火で100人の村人たちを圧制した。村が盗賊たちより人数が勝っていても、農具で勝てるような相手ではなかった。  盗賊たちは例によって村にあった食料、金目のある物を奪っていった。抵抗すれば、血に飢えた獣と獣の牙に切り裂かれる。村人たちはそれが恐ろしかった。  ただ、三助は切り裂かれてもいいと思っていた。  幸を、盗賊たちに奪われた瞬間に───。  
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!