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「ならんよ」
父の次郎太が、諭すように静かに言った。
次郎太はここ数年一気に老けた。黒かった髪は白髪に、顔には深い皺が増えている。幼いときはそれなりに威厳を感じさせていたが、今ではただの老いぼれだと息子ながら酷い事を思っている。しかし、いくら威厳を失おうとも息子を守るという固い気持ちは昔から変わらないと三助は実感した。
「生きて帰れるなんて思ってねぇだろうがお前だって」
「・・・けど親父、俺は」
「わかっとる。わかっとるよ」
次郎太は利き手の親指と人差し指を互いに擦り合わせ始めた。昔から真剣になると出てくる癖だ。
「取り戻したいのは、わかる。ただ、お前が闘って勝てるなんざ、無理な話なんだよ」
控えめな声だが、はっきりと断言した口調で次郎太は一人息子にそう言った。
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