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暑い。とにかく暑い。
クールビズのクールという文句が霞んでしまうほど、オフィスの中は煮えたぎっていた。
最近はやりのエコという思想は、地球には優しいかもしれないが、ヒトにはさっぱり優しくなく、なまぬるい空気の中で時間に追われながらする仕事は、どう考えても非効率の良い例でしかなかった。
「あー、木原くん。」
ネクタイがないせいで、だらしなく首回りを露出させた上司が、扇子を片手に話しかけてきた。
「悪いんだけどさ、あれ、上の会議室に持ってってくんない?ウチだけまだ資料持ってってないんだよね。」
滴る汗を飛沫に変えて、上司は笑いながら大量の資料を指差した。
ガバッと開いた口からは、中年期独特の齢を帯びた臭いが漏れ、首元のだらしなさも相まって、余計に腹ただしく見えた。
「わかりました。」
キーボードから手を離し、資料の束の元へ。
「悪いね。」
そう言って去っていく上司の背中からは、申し訳なさの欠片も感じられなかった。
「………くそタヌキ。」
誰にも聞かれないようにひとりごち、資料を抱えて会議室へ向かった。
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