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タヌキは、軽い感じで上に─とか言っていたが、そんなに容易な道のりではない。
会議室は、フロアにして三つ分上にある。
高々三つかと侮るなかれ、これを階段で昇らなければならないのだ。しかも、空調の効いていない階段を。
こんなところにも、エコという素晴らしい思想の余波が押し寄せてきていた。
もしも、空調が全フロアキンキンで、エレベーターも終日利用可能なら、あのタヌキだって喜んで雑用をこなしたことだろう。
つまりこれは余計な仕事。俺はさしずめ、消費電力カットというノルマ達成に捧げられた贄といったところだ。
「あ、木原さん。お疲れっす。」
タラタラと階段を昇っていると、上から降りてきた笹木に声を掛けられた。
「木原さんもおつかいっすか?」
クイッと上の階を指差して、ニヤリと不敵に笑う。
「そんなとこだ。」
抱えた資料をポンッと叩くと、「タルいっすよね~。」と崩れきった言葉が返ってきた。
「会議、どんな感じだった?」
わざわざ聞くまでもなかったが、話を折るタイミングを逸し、つい口をついた言葉がそれだった。
「いつも通りっすよ。あ、クーラーだけは効いてたんで、もうちょい居たかったすけどね。」
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