プロローグ

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 仕事を終えて、2人で部屋に帰ってきた。実際は、仕事を終えて2回目の帰宅。私と彼は、一度帰ってきてから歩いて近くの居酒屋に行ってきた。  彼が部屋の鍵を開けて、私を先に入れてくれた。玄関からまっすぐ伸びる廊下を歩いて、寝室兼リビングへ。後ろから彼が 「あちー」 と呟いてやってくる。部屋に入ると、まず照明をつけていないのに薄明るいことに気付いた。彼が朝の出勤時からカーテンを開けたままのベランダ窓から、薄くやわらかい光が差していた。私は彼が照明をつけてしまう前に、窓に寄って外を見た。 「今日、満月ですよ」 ささやかな夜景と、ぽっかり丸い月。彼が私の隣に立って空を見上げた。 「ああ、ほんとだ」 彼の横顔から月に視線を戻す。ここからの景色だと、このマンションより高い建物はあまりない。  背にした方角には近年整備されてきた駅があり、その周りにはもっと大きなマンションはいくつもある。このマンションも、比較的新しい。それらの新築ビル達から隠れ、星だけが見守ってくれる空間が、ここ。  月に見惚れていると、彼が肩を抱いた。彼の温かい手に神経が集中するのがわかる。胸が熱くなって、そして、うっとりと瞬きして、私は彼の肩に頭を預けた。 「エアコンつけないと。暑いでしょ?」 暑がりの彼にそう言うと、 「ん?うん」 それだけ言って私の頭に頬を寄せた。酔ってるのかな。嬉しいけれど、汗臭くないかな。  社内で隠れて結ばれた私達にはちょうどいい、誰にも邪魔されない空間。
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