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「ごめんなさい、瀬川先輩」
テニスボールが大量に入ったカゴを両手で持ちながら、竜崎桜乃は瀬川初佳に頭を下げた。初佳は首を振り、ネットが入ったカゴを抱え直す。
玄関でボールとネットを先輩に運ぶよう頼まれたものの、一緒に運ぶはずだった部員がどこかにいってしまい、立ち往生していた桜乃に初佳が声をかけたのだ。
最初桜乃は「いたずらされてはいけないから見ていて下さい」と言ったのだが、初佳は「なら私も運んだほうが早いから」とさっさと持っていってしまった。
(テニス部、嫌いじゃなかったのかな?)
一年生にまで、瀬川初佳の噂は流れてきている。テニス部のNo.2と付き合っているのに観戦にいかないとか、テニス自体を嫌っているとか。
ちらりと桜乃は横目で初佳を見る。長い髪を流していて、その顔立ちはとても綺麗だ。一年違うだけでこの差はなんだろう?
「竜崎さん?」
「え、あ、はいっ!あ。ありがとうございましたっ」
気がつけばもうテニスコート目前だった。初佳のカゴはすでに地面に置かれている。
「それじゃ、頑張ってね」
「はいっ」
ぴょこん、と頭が下がるのに合わせて桜乃のみつあみが跳ねた。初佳は手を振り、足早にテニスコートを後にしようとした。
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