彼女がコートに立つ理由

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 甘えだと知りつつ、それでも初佳はテニスに関わりたくなかった。今ここにいることと矛盾するけれども。 「…うん」  ごめんなさい、と心の中で不二に謝る。私は、できないと。 「テニス以外ならいい?」 「構わないけど」  ラケットを抱え、俯いている初佳は不二の晴れ晴れとした笑顔を見ていなかった。気付いていたら、直ぐさま前言撤回していただろう。  周りは嫌な予感に襲われていた。 「うん、じゃあ一緒に旅行行こうか。大石、始めよう!」  空気が固まった。最も顕著なのはもちろん初佳だ。 「…………あ、ああ。始めようか。勝負は1ゲーム。サーブ権は瀬川さんでいいんだな?」  青学の魔王様には青学のお母さんも逆らえなかった。フリーズした初佳を置いて、不二は反対側へ移動する。…運悪く、初佳はしっかりとシングルコート内にいた。 「…旅、行?」  ゆらりと初佳が動いた。  確かにテニス以外なら構わないと言った。言ったが。 「初佳、もう始まってるからね?」  さらっと公衆の面前で何ぬかしてんだこの魔王。  が、ここで前言撤回するのは初佳のプライドが許さなかった。そもそも撤回させてくれないだろうが。
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