182人が本棚に入れています
本棚に追加
甘えだと知りつつ、それでも初佳はテニスに関わりたくなかった。今ここにいることと矛盾するけれども。
「…うん」
ごめんなさい、と心の中で不二に謝る。私は、できないと。
「テニス以外ならいい?」
「構わないけど」
ラケットを抱え、俯いている初佳は不二の晴れ晴れとした笑顔を見ていなかった。気付いていたら、直ぐさま前言撤回していただろう。
周りは嫌な予感に襲われていた。
「うん、じゃあ一緒に旅行行こうか。大石、始めよう!」
空気が固まった。最も顕著なのはもちろん初佳だ。
「…………あ、ああ。始めようか。勝負は1ゲーム。サーブ権は瀬川さんでいいんだな?」
青学の魔王様には青学のお母さんも逆らえなかった。フリーズした初佳を置いて、不二は反対側へ移動する。…運悪く、初佳はしっかりとシングルコート内にいた。
「…旅、行?」
ゆらりと初佳が動いた。
確かにテニス以外なら構わないと言った。言ったが。
「初佳、もう始まってるからね?」
さらっと公衆の面前で何ぬかしてんだこの魔王。
が、ここで前言撤回するのは初佳のプライドが許さなかった。そもそも撤回させてくれないだろうが。
最初のコメントを投稿しよう!