彼女がコートに立つ理由

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「不二ーぃ、お手柔らかにねー!」  ぶんぶんと菊丸が手を振る。そちらへ不二が手を振り返した時。  バシュンッ、と音がして、ボールがラインぎりぎりで跳ねた。 「……15-0…」  茫然と大石は呟いた。一斉に視線が集まった先には黄色いテニスボールをバウンドさせている初佳がいる。不二は瞬きを繰り返し、初佳のサーブによって自分の背後に転がっていったボールを見た。  入った。ラインぎりぎりに。  まぐれでは有り得ないサーブの音と場所だった。  初佳は不二と目を合わせ、微笑むと手慣れた様子でボールを上げた。ラケットの真ん中から放たれるサーブは、また右側のラインぎりぎりだ。  難無く追い付いた不二が打ち返すが、初佳は前に飛び出して来ている。不二の本調子ではないボールの威力を殺し、初佳はぽうん、とネットから10センチの距離へと落とした。  コロコロ、黄色が転がる中、誰も言葉を発さなかった。  沈黙を破ったのは、初佳。 「誰が、テニスできないなんて言った?」  それが自信満々に言い切ったのなら即座に反感を持たれていただろうが、初佳の声はただ哀しそうだった。 「…30-0」  三度目のサーブ。不二が打ち返した球を、腕を伸ばして初佳がまた打ち返す。その速度は、女子部員のレギュラーに劣らない速さだ。
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