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田舎と聞いても残念ながら記憶を引き出せない。悩む不二をよそに遥はにこにこ笑ったまま帰り支度を始める。
「初佳、周助くん、送りますから駐車場へ行ってください」
でも、と遠慮しかけた不二を遮り、初佳は不二を引っ張った。
×××
「ありがとうございました」
不二は自宅玄関の前で遥に向き直る。初佳は少し離れた車の中だ。遥の車は医者らしくなく一般車だった。
診察代とタクシー代は初佳が竜崎から預かっていたので、不二は何もしていない。
「いえいえ。…あまり初佳に心配かけないでくださいね。結構あの子は弱いんですから」
遥は初佳の何なんだろうか?確かめたいが、確かめるのが嫌だった。
別の意味で頭が痛い。
「でないと、初佳は渡せませんよ?周助くん」
「…?」
面食らう不二へ、遥は口元だけ笑みを浮かべた。
「私にとっても初佳は大切な子です。…では」
爆弾発言を残し、遥は手を振って車へと戻っていく。乗り込んだ遥と初佳が笑っているのを、不二は見送るしかなかった。
End
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