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テニスに嫉妬してくれるなんて嬉しい、とは言えない。拳が飛んできそうだ。
「…帰るっ」
ぷいと顔を逸らして君は歩き出した。さらさらな髪が窓から吹く風に揺れる。
テニスの勝敗のように、僕は何事にも執着出来なかった。そんな僕が自分のものにしたいと、誰にも奪われたくないと思ったのは、目の前のこの子が初めてだった。
胸を張って「好きだ」と言い切れる幸せを教えてくれたのも。
「校門まで送るよ」
呼びかけると君は振り返って止まる。追い付いて隣に立ち、僕は小さな手を握る。まだ頬を染めて、でも微かに笑んで前だけを見て握り返してくる君。
テニスにまで妬いてくれてるなんて知ったら、こうやって手を握り返してくれていたら。さっき感じた不安なんて消え去っていく。
明日サボってどこか行こうかと言った僕に、君が嬉しそうに笑ったのは、別れの間際だった。
END
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