終了の記憶

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◇◇◇  昔、誰かが言っていた。時間には限りがある。宇宙のように膨張し、無数の線はあるものの、時間は有限だ。  岡崎 当護は目を瞑りながら昔を思い出していた。無数の時間、辿り着く先、何を言っているのか、今でも分からない。ただの妄言か、狂言か。だが、その言葉は当護の中でいつまでも残り続けている。  ――あれは誰の言葉だったっけ……。  思い出そうと、記憶を呼び起こす直前、それは怒声によって邪魔をされた。 「おい、岡崎!! 俺の授業で寝るんじゃない!!」  顔を上げ、周りに視線を送る。数十名の生徒が自分に注目し、教壇に立つ教師は目を吊り上げながら腕を組んでいた。  寝ぼけていた。そう、今は授業中だった。 「あ、はい。すんません」 「ったく、俺の授業だけは寝てくれるなよ。わりとへこむからな」  この教師は教師らしくない発言をした。相も変わらず、と当護は半ば呆れながら次の言葉を発する。 「大丈夫、先生の授業が面白くなかったんじゃなくて、先生の声が眠気を誘ったんです。だから安心してください」 「慰めになってない。むしろ貶している」  当然、多少の悪戯心あっての発言だ。これを許してくれるのが、今現在落ち込んでいる垣端 卓也という教師である。  だからだろう、舐められているのか彼は生徒から人気がある部類の教師だ。少なくとも、あからさまに嫌われてはいないだろう。  垣端は深いため息をつき、肩を下げる。彼はまだ若く、二十代後半辺りの年齢だったはずだが、まるでリストラされ人生に疲れた中年サラリーマンのように見えてしまう。  決して容姿は悪くないのだが、どうも彼の場合はメンタル面が表に出すぎていた。
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