終了の記憶

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 見た目はまるで体育の教師。筋肉質な体にジャージ姿、硬質な黒い短髪が跳ねまくっている。健康的な日焼け、爽やかな顔立ちを見れば、容姿は悪くない。  問題なのは彼が数学の教師であり、同時にメンタル面が非常に弱いという事だ。当護は垣端の事を嫌ってはいないのだが、数学は大の苦手分野であり最も嫌っている科目である。当護が授業に対して前向きでない理由は、やる気が出ない、退屈、眠い、といった悪循環が原因と言っても良い。  自分の嫌いな事は無理矢理にでもする必要は無い、というのが当護の持論であった。自分勝手な逃避だと自覚しているが、悪癖のように止められない。  結局、当護は落ち込んでいる垣端を冷めた目で見詰め、面倒に感じたのか適当な励ましを入れる。 「ほら、皆は先生の授業を今か今かと待っている。俺の事は異常なひねくれ者って考えて、早く授業を再開してください」 「いや、しかし……」 「食い下がるのは皆の迷惑になりますよ」  その後、垣端は納得出来ないような表情をしながら授業を再開する。彼は教師、という職業を割りきって考えている。生徒を優先するのではなく、自らの立場や体裁を優先していた。  こんな性格だからか、いつも当護が眠っていても、落ち込みながらも見逃してくれる。教師であろうとしている、自分勝手な彼らしい。  当護は授業を続ける垣端の声を聞き流しながら、窓の外を見た。窓側の一番前なので、景色は非常に見えやすい。  と、ここで当護は違和感を感じる。人のいないグラウンド、普段は使われていない校門の向こうに、人がいた。姿形は見えないが、確かに校舎の方を見ている。  別に違和感を感じる程でもないはずだ。しかし、どこか引っ掛かる。心の中で、何かがざわざわと蠢いている感覚だ。気持ちが悪い。  数秒後、気持ちの悪い感覚は収まり、校門から視線を外した。
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