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その日 弥吉は 思いがけない小銭を手に入れたものだから前々から 気になっていた深川にまで出かけたのだった。
気になっていたというのは、深川に流れてきた女郎のことで。
弧都壱(こといち) などという名前もさながらで、聞けば猫が化けているのだとか。
眠っている間に、行灯(あんどん) の油を舐めていたなどという噂が尽きない女だ。
「弧都壱ってんなら、狐だろうによ」
とにかく好奇心が足つけて歩いているような男だからこの女には、ぜひとも会っておきたかったのだ。
店先から覗いていると、若い女郎たちが手を差し伸ばしてくる。
「弧都壱には、会えるかい?」
目当てがいると知るや、女たちは別の男へと手を伸ばす。
ましてや弧都壱だ。
皆、気味悪がって後ろを伺っているのが解る。
薄暗い店に案内されて、時化(しけ) た派手な布団が敷かれている部屋で待つように言われた。
ほどなくやってきたのは、想像していたような狐狸妖怪じみた女ではない。
艶っぽい目をした中々の年増である。
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