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安酒を飲んで、それなりに女の身体を楽しんだ後
弥吉は此処に来た理由を思い出した。
しかし、どう切り出したものだろう?まさか、真正面から「化け猫というのは本当か?」などと訊く訳には行かない。
「ふーむ」
もう空になっている猪口(ちょく) を舐めていると 横にいる女が肌を寄せてくる。
「今日は御泊りだと聞いたのに、随分 上の空でありんすねぇ」
弧都壱の艶かしい声を耳元で聞かされて、弥吉もいい気分になる。
「なぁ、弧都壱。
なんでもいいから、夜伽(よとぎ) でもしてやくれないかい?」
それを聞いて、女は上品に声を立てながら笑った。
「お子さまのようなことを言いなさる御方だねぇ。
それじゃあ、狐狸妖怪(こりようかい) と言われる弧都壱姐さんの夜伽を一つ ちょいと、話してみようかね」
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そう、あの事があったのは寛永七年だったか……八年だったかねぇ。
とある若者が京の都から、お江戸にいらしてさ。
店を借りて、なかなか趣のいい店だってんで商売も上手くいっていたんでありんすよぉ。
その近所に、そりゃあ優しい町娘がいたんです。
器量よしで、近所の評判もいい。
この娘が、その京から来た男に恋をした。
これが、熱心 に 懸想文などを袖に入れていく。
その中身といったら、恋に狂うた女の情熱がたっぷりとね。
こんなものを送られて、嫌に思うような男じゃあなかったのさ。
二人は、ねんごろな仲になったんだけど 親にも隠していたんだよ
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