40人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前の体は弱すぎる。それじゃ生きてけねえぞ」
「そんなこと言われてもさ、熱いものは熱いよ。どうやっても鍛えられない」
肩を上下させて視線を彰久からずらす。その先にあるのは、先程指を火傷しそうになった焼芋。
こういうとき、人は本能に忠実だ。
いくら中学時代の友人に久し振りに会おうとも、その目は前の芋に向いてしまう。向くだけならいいのだが、気持ちも半々に別れるから、迷惑なのだ。
懐かしいなと思う気持ちと、食べたいという唾液の量が、同じくらいある。
それは体にも現れていた。体は彰久を向いているのに、目は芋を見つめてる。
気持ちと体、この2つだけだったらイーブンだったろうに秋という季節が後押ししているのだろう、目の前の焼芋がいやに美味しそうに見える。
おかげで、天秤は均等を保てなかった。
皿に置いてから1分と立たないうちに、僕はまた焼芋に手を伸ばしていた。
「お前の家に、俺は泊まれるか?」
芋に手を伸ばす僕の横から、彰久が訊く。
「平気だよ。一人暮らしだし、出入りする人もいないから」
焼芋を包んでいる新聞紙をちょっと剥く、皮を取る。まだ熱くて上手く取れなかったが、半分ほど乱暴に剥くと、そのままかぶりついた。
驚くほどぐらい甘かった。
「これ、どこの芋?」
「さあ。おじさんはなにも言ってなかったから、わからない」
「スーパーで買ったんじゃないんだ」
「当たり前だろ」コートを脱ぎながら、彰久が言う。僕はハンガーを一つ取ると、彰久へと投げて渡した。
「適当な場所にかけていいから」
「おう」
コートをハンガーに吊し、適当な縁にそれを吊す。自分で揺らして落ちないことを確認してから、目を離した。
最初のコメントを投稿しよう!