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「荷物はどこに置いたらいい?」
「僕のと混ざらない場所にあったらどこでもいいよ」
「じゃあ、隅に置かしてもらうな」
肩にかけていたエナメル鞄を床に下ろす。ドシンと重そうに音がした。
彰久の荷物は、中学時代から使っていたのを見ていた、メーカー品の黒いエナメル1つだけだった。
買い換えたというわけではないようで、あちこちに傷がついている。白くプリントされたロゴはすでに消え掛かって見え辛くくなっていたが、まだ使えるようだ。
「そういえば、彰久はどのくらい家にいるつもりなの?」
「ん?」肩掛けのヒモを持ちながら、彰久がこちらを向く。
なぜか焦っているような感じがした。
「正確な日数言ってなかったでしょ? どのくらい?」
「ん――……。しばらく、かな。3日とか4日とか、それ以上かも」
「そんなに?」
「ダメか?」
「別にダメじゃないけどさ」
さっきも言った通り、一人暮らしをしているし、出入りする人は誰もいない。
だから迷惑がかかるわけじゃないのだが、僕が気になったのは、彰久の荷物の量だった。
持ってきたエナメルはパンパンに膨れているから、相当入っているのだろうけど、3日間泊めてくれと言うわりには荷物が少ない気がした。
あのエナメルの入る量は、なんとなくだが僕もわかる。僕も同じのを中学校で使っていたからだ。
あれは、そこまで服を詰められるものじゃないはずだ。
修学旅行であの鞄に洋服を詰めようとして、凄く苦労した記憶が今の残っている。
あのときはスキー教室で、ウェアは向こうで借りるから持っていかないとしても、3日間分の着替えやらパジャマやらをバスタオルやらを詰めるのに相当鞄と格闘した。
1時間ほど入れ方を悩んだのだが結局入らず、最終的に旅行鞄にしたのだ。
今回は僕の家だからバスタオルやハンドタオルは無しにしても、彰久が口にした日数分の服を詰めるのは無理だ。
毎日洗うにしても、無理がある。
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