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「泊まっていいんだよな?」
「うん」
「じゃあ、これ」彰久がポケットから封筒を渡す。中には10万入っていた。
「なんなの、このお金」
10人の諭吉を見ると、あまりの神々しさに目が眩む。貧乏人の僕には、まず縁がない金額だ。
「やるから、好きに使ってくれ。俺が滞在する、迷惑料だと思ってくれていい」
「ここから、彰久の食事代は出るの?」
「いいや。俺の分は俺が出すよ。だから、それは自由に使ってくれて構わない」
「悪いよ、こんなに。半分で充分」
「いいんだよ。受け取れ」
彰久にお金を返そうとしたが、断固として受け取ってはくれなかった。
確かに、人一人同居するなら、いろいろお金がかかるだろう。
だがそれに10人の諭吉が必要なのだろうか。食費もかからないで、10万。一週間滞在するとしても、多すぎる。一か月はここにいるつもりなのだろうか。
「焼芋、旨いか?」
「え? 美味しいよ。そういえば彰久の分は無いの?」
「もちろんあるさ」
彰久が焼芋を1つ出す。中にはまだ入っているらしく、袋の底は重そうに下に落ちていた。
「それ、高いから」
「いくらぐらい?」
「一本千円」
「千円!?」
あまりの金額に、僕は叫んでいた。
もう焼芋は、2/3以上腹へと入っている。
もっと味わって食べれば良かった。貧乏人の性からか、そんなことを思ってしまう。
僕の前で彰久も焼芋にかぶりついていた。
畳に直に座り、あぐらをかいている。
僕の部屋にはイスなんて無いし、テーブルも一人用の小さなものが1つだけ。
今、テーブルの上には焼芋が乗っかっていた皿と巻いていた新聞紙、それに芋の皮があるだけだった。
「どこで買ったの? そんな高価な芋」
「すぐそこの焼芋屋。お前ん家に来る途中に見つけたら、買ったんだ。高かったが、旨い」
「うん」すぐにうなづく。それほど美味しかったのだ。
「こんなの食べたら、もう夕飯いらないかな?」
「まだ焼芋は残ってるぞ」
「何本?」
「あと2本。俺とお前で一本ずつ。これでどうだ」
「じゃ、それは明日食べよう」
あと一本あるとわかると、僕はあっという間に残っていた焼芋を平らげた。
まだ残っているのなら、今チマチマ食べるのはもったいないし、味がわかっている分食べたくてしょうがない。
自制は効かず、無言で焼芋を喰った。
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