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「喧嘩とかじゃないけれど、あなたと私、なんだかずっと気まずいままだから。あなたに、たこ焼きのひっくり返し方、教えてもらった時からずっと……。私のせいなんだけど、このままの状態は嫌なの」
彼女はじっと窺うような目で僕を見上げた。
「君は僕のことを怖がっているんじゃないのかい? 僕が馴れ馴れしく近づいてきたら迷惑だろう。嫌だろう。今ぐらいの距離感が僕らにはちょうどいいんじゃない」
「私は別にあなたのこと、怖がってなんかいないわ!」
「別に僕に気を使う必要はないよ。今もそうだけど、僕の顔色をずっと窺っているし、どもったりして挙動不審になっているじゃないか」
否定する彼女に僕は指摘する。
下手な気を使われたところで嬉しくもなんともない。
「それは、違う。それはあなたのことを怖がっているからじゃなくて、その……。あ、あなたに嫌われるのが怖かったの。あなたに嫌われてないかがすごく怖くて……。ずっと話しかけるのも躊躇っていたの。ごめんなさい。私が変に意識し過ぎていたせいね」
彼女はおずおずとそう口にすると俯いた。
「別に僕は君を嫌ったりなんかしないよ。むしろ君が僕を嫌いなんじゃないかと思うくらいだよ」
「私はあなたのことを嫌ってなんかいない! 前にも言ったけど、私はあなたのことを嫌いになんて、なれないわ……。嫌いになる理由も、ないわ……」
彼女はまっすぐ僕を見上げて強く否定した後にどんどん語調を小さくし、なぜか悲しげな顔をした。
「……とりあえず、その辺のベンチにでも座って話そう。立ったままだときっと君も疲れるだろうし」
その表情を直視していられず、僕は彼女から視線を逸らし、駅のホーム内のベンチへと顔を向けた。
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