41人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
――…年に一度、文月学園にて実施される『振り分け試験』で獲得した成績を用いて来年度のクラスが決まる…。
振り分け試験当日。
――早朝。
学園に向かう準備を整えた翔子は、朝食を取る合間視界が時折霞むのを感じながらも朝食を済ませて家を出た。
翔子にとってソレはもう何のことはない、いつも通りのことである。
「…よぉ、よく眠れたか?翔子」
「……雄二」
翔子が家の門を潜り抜けるとともに翔子にとって、誰の声よりも一番聞き心地の良い声が軽い調子で翔子へと向けられた。
顔を見なくとも誰であるかなどわかる。
表情に変化の少ない翔子の口元が微弱にも笑みを象り、小さく名前を口吟む。
ゆっくり視線を横へずらしていけば180cm強はあるだろう長身がまず翔子の視界へと映る。順を追い顔にまで視線を動かせば、精悍且つ整った顔立ちの幼馴染みが片目を閉じらせながら意志の強い眼差しで翔子を見ている。
「……ちゃんと、眠れた」
「そーか…なら、良いんだがな」
「……ただ、ちょっぴり…眠い」
雄二の隣に立つ。
雄二の隣は私の居場所だ。
誰にも譲るつもりはない。
翔子は雄二の隣に立つと再び霞んだ視界を払拭するようにこしりと目を擦り伝える。雄二は眉間を僅かに寄せると長考の兆しを見せたようだった。
「翔子、振り分け試験は大丈夫そうか?」
「……頑張る。雄二と…、……雄二と同じクラスになれるといい…」
相変わらず雄二の声は何処となく軽いが、表情は声よりも軽いものではなく真剣だ。心配しているのは表情から見ても分かるのだが、生憎翔子は目を擦っていたためその表情までは見てはいなかった。
雄二の言葉に大丈夫だと告げるのではなく頑張ると答えたことで、雄二の眉間の皺はより一層深みを増す。
「まぁ、頑張ってくれ(コイツなら体質にさえ問題なければAクラスだろうがな…)……あんまり目擦るとウサギになんぞ」
「…うん。……雄二、ウサギは好き?」
「いんや、大が付くほど大嫌いだ」
「…なら、擦らない」
雄二の言葉一つでそれまで目を擦っていた翔子の動作が止まる。雄二の言った言葉は『ある話題』に携わらなければ翔子の中で絶対的な威力を発揮するのだ。
最初のコメントを投稿しよう!