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バスを降りて坂道を少し上ると、私の通う高校が見えてくる。
爽やかな朝、街路樹からの穏やかな木漏れ日。
「音葉ー!」
私を呼ぶ声。
声のした方を見回す。
ダークグレーのブレザー、ワインレッドのリボンネクタイ、チェックのスカート。
私の通う高校の制服。
「こずえ、おはよー」
大きく手を振りながら、こずえは駆け寄ってきた。
宮野こずえ。私のクラスメイト。そして親友。
入学以来、何かと一緒につるんでいた。
「いこ」
私たちは歩き出した。
「…昨日ね、テレビ観てたらさぁ…」
他愛も無い会話をしながら学校を目指す。
平穏な登校風景。
そう、平穏。
あくびが出るくらいに平穏な、
“日常”。
“非日常”の訪れを唐突に感じるのは、それが唐突に訪れるからではない。
私たちがそれを認識する頃に、すでに”そこにある”からだ。
平穏の陰にその身を潜ませながら、
私たちに気付かれない様にゆっくりと、
阻まれないようにそっと、
静かに、
でも確かに。
いつの間にか居座っていて、ようやくその姿を現すからだ。
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