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気だるい授業も毎日繰り返せばそれが普通になり、遅く感じる時間の経過さえやがて意識されなくなる。
いつの間にか放課後。
その感覚は、まさにそういうところからくるものだろう。
放課後間もない教室。今日は部活も無いので早く帰る予定だった。
バッグを持って、席を立つ。
「オトハー、もー帰っちゃうのー?」
わざと棒読みに私を呼ぶクラスメイト。
水谷凛。いわゆる”ギャル”といった風貌。中身もそんな感じ。
別に悪い子ではないし、楽しい子。
「凛、補習?」
「そ。マジやってらんないよねー。この前の赤点のせいなんだけどさぁ…」
「大変だね」
「同情してくれるのかい友よ。じゃあ私を残してすぐ帰るとかしないよね?」
そう言ってニカっと笑う。
「…はぁ…。でも私に何ができるって言うの?」
「話相手になってくれるだけでいいのさ! ね、ちょっとだけ」
「まったくこの子は…」
私はやれやれといった調子で再び席に腰を下ろした。
「…で、何話そうかオトハ?」
「もう。凛が提案したんでしょうよ…、うーん…」
ガラッと教室の戸が開いた。
「うわ、タイミング悪っ」
凛が顔をしかめた。
担任の斉藤先生だった。
「水谷それはどういう意味だ。課題済ませたら帰れるんだから頑張りなさい」
「ぶーぶー」
しかたなさそうにシャープペンシルを握る凛。
チャンス。今なら帰れそうだ。
「あー、高峰。ちょうどよかった。ちょっと職員室行っててくれるか、すぐ行くから」
…ちょうどよくなどない。
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