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全員が沈黙の中、時計の針と箸を動かす音だけが部屋に響いていた。
黙々と箸を進める志貴だが、不意に服の袖を引っ張られ顔を向ける。
そこには志貴より二回り以上小さい少女が座っており、志貴の裾をちょこんと掴みながら頬を軽く朱に染めて見上げていた。
「……カンナお姉ちゃん、大丈夫?」
心配そうな表情で見つめてくる彼女を志貴はしばらくの間、黙って見つめた。
やがて動き出し、紫色のショートカットヘアーに手を乗せる。
「んっ……」
一瞬驚いたように目を瞑るが、ゆっくりと開いた。
「いつものことだから、愛香は気にしなくていいからな」
そう。カンナには一つだけ致命的欠陥があったのだ。
幼児を諭すような口調で話し、頭に乗せた手を優しく動かした。
彼女の名前は柏木愛香。
割りと無口で、ぽむ堂の住人としか話さない。
ぽむ堂の住人全員から可愛がられ愛香もまた心を許しているが志貴には特に心を許しており、良く甘えている。
ポカンとした表情で彼女は見上げるがやがて目を瞑る。
「……ん、分かった」
小さく微笑み頷いた。
「きゃああああっ! 今日一発目の“愛香スマイル”!」
「愛香が志貴にだけ見せる究極の甘えた表情……。毎日見てるけど、威力が衰えることはないようだね」
何やら騒いでいる外野を放って、志貴は愛香を促して再び朝食に戻った。
「ほら愛香、タコさん作ったからあーん」
「あーん……んっ、おいしい」
ぽむ堂は今日も平和なようだ。
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