プロローグ

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『まもなく、終点に到着致します。お忘れ物の無いようお気を付け下さい』 電車の車内アナウンスが目的地を告げる。 ゆっくりと停車しドアが開いた。 疎らだが続々と乗客が降り改札または乗り換えへと向かう。 その波が一段落した頃、のそのそと最後の一人となった乗客が電車から降りた。 「うんしょ……っと!」 大きな旅行バッグをホームへと降ろしため息を一つ。 しかも持ち物はそれだけでなく、他にも左右の肩には交差させるようにかかるパンパンに詰まったボストンバッグが二つ。背中にはこれまた大きな、登山者が使うようなリュックがこちらも中身がパンパンに入っていた。 非常に遅い足取りで改札を目指し、切符を通して抜ける。 目先にベンチを見つけ、そこに腰かけた。 二つのボストンバッグを地面に置き、背中のリュックを前に持ってきて中を漁る。 やがて一つの紙を出した。 そこには地図が載っており、今いる駅から赤い線が引いてあり、少し先に丸で印が付けられていた。 確認し終え顔を上げると販売機が目に入る。 「はふぅ……何か、飲もっかなぁ……」 今日は四月といっても夏のように暑い。 だらん、と垂れそうになる涎を啜りながら徐々に近づくが、ハッとしたように首を振った。 「こんなことしてる場合じゃなかった! 早く行かないと!」 慌ててバッグを持ち直し、カンカン照りの外を歩き出した。 手に持つ紙はどうやら契約書のようで、契約したのはアパートの賃貸契約のようだ。 契約したアパートの名前にはこう書かれていた。 《ぽむ堂》と。
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