傘を差す人

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それは、庭の紫陽花が色を鮮やかにする休日の昼下がりだった。 庭の竹垣から紫の傘が覗いていた。 「…ほら、見ろよ。また来てるよ」 将棋盤に目線を落としている山本に耳打ちした。 山本は咄嗟に顔の向きを変えると、竹垣の上に頭を出している紫の傘を雪見障子から覗き込んだ。 「…どんな女か、顔見てみたいな」 山本がにやけた。 「俺も見たいけど、垣根が邪魔して顔は見えないし…」 「傘の色からして、かなりの美人だな」 「フン。傘の色で決まるのか?」 俺が上目を遣うと、 「美しくなきゃ、紫の傘なんて差さないだろ?」 目尻に皺を刻んだ山本が、子供のように向きになった。 山本とは大学からの付き合いで、会社こそ違えど、帰りに待ち合わせて酒を飲んだり、休日には将棋を指しに来る仲だった。
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