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キュッキュッとバッシュの体育館を踏む音が響く。
俺が過去に戻ってきて、もう五日が経とうとしていた。
そして俺は、体育館の隅に座り込んでボーっと練習風景を見ていた。
「なんや、貴規。調子わるいんか?」
ぼーっとしていると、走りこみを終えた新が俺の隣に座り込んで俺のタオルで汗を拭いた。
「いや~ちょっとな。考え事や。てか俺ので拭くな」
「貴規が考え事とか、今日は槍ふるで。ええやんけ、減るもんちゃう」
汗臭さが移るやろ、と勢いよく新からタオルを奪う。
不服そうに俺のほうを見てくる新を軽くスルーしてまた、練習風景を眺める。
「なあ、新。お前、好きな人おんのか」
なんとなく、本当になんとなく聞いてみた。
すると新は俺のほうを向くのをやめて、試合をしているコートを見つめて静かに言い放った。
「……おるよ。一年の時から好きなやつ」
「おい、俺初耳やぞ」
そらそうや。誰にも言うたことないからな。と爽やかに笑う新の笑顔に、どことなく影があるのを俺は気づかなかった。
「言うてくれてもええやんけ。誰な」
「は? 誰が言うか」
「もう六年間の付き合いやぞ! ゆうてくれてもええやんけ」
というと心底嫌そうな顔を向けてくる新。
そんなに俺に言うのが嫌か。軽く心に傷をおったぞ。と心の中でつぶやく。
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