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つれてこられたのは榎本さんと最初に会った中庭みたいな所。
「…おい、つれてきたぞ」
着くとすぐに榎本さんは俺を放してベンチに向かって声を発した。
するとベンチからのそりと大きな人が起き上がった。
なんとなく、見覚えがある。
それはたぶん、あの日の朝見た人で。
「……ごく…ろ……さま…」
立ち上がって振り返ったその人は、やっぱりあの人だった。
あの日、俺の首を掴んで持ち上げた、柚子って人。
「…に、ちは……カズハ…くん」
……こんにちは、っていったのかな?
彼はふわりと微笑んだ。
「こんに、ちは…」
「2回…目、だね……あの時……ごめ、ん…」
「あ、いえ…大丈夫です」
ゆっくりとこちらに近づいてきて、むぎゅっと俺を抱き締めた。
「え?えっ?あのっ…」
「……や、と…あえ、た」
「やっと会えた……?あの、なんのことだかさっぱり…」
「俺…嬉しい……会えた」
会えた会えた、嬉しい嬉しいと彼は繰り返し呟いて、なかなか離れる気配がなかった。
やがて彼の手が俺の首の後ろに触れる。
「っ!」
肩が大きく跳ね上がる。
そこには、触れられたくない。
「…っや、やめてくださっ」
上手く力が入らなくなって、抵抗らしい抵抗ができない。
嫌なのに…!
容赦なく首の傷に触れる彼に吐き気を覚える。
ふと、彼が呟いた。
「………消えない…」
見上げると、彼の目は俺を見ていない。
見ているはずなのに、それはどこか遠くを見つめていた。
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