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「消えない……傷、消えない……カズハ…辛い?怖い…?」
ぐりっ。
彼の指が、爪が、俺の傷を抉ろうと動く。
「いたっ…!やめ、ろ……っ」
怖い。怖い。
目の前のこの人が、とてつもなく怖い。
思い出したくないんだ。
もう2度と…あの日を思い出したくないんだ。
なのにどうしてこの人は、俺の傷を、記憶を、掘り返そうとするんだ?
ほとんど初対面なのに、どうしてこの人は傷のことを知ってるんだ?
「痛い…っ!放せ…」
彼の胸を叩いて抵抗をしても、彼は一向に放してはくれない。
がりっ。
「っ……」
息が苦しい。
やめてくれ。
思い出したくない。
痛いよ。
助けてよ。
「にぃ…ちゃ…っ」
あの日みたいに、助けてよ。
「──…てめぇはっ!」
ごちんっ!
急に体が、誰かに引き寄せられた。
「…………痛い……」
「痛いじゃねぇ、なにやってんだバカが!」
引き寄せた誰かは、俺を優しく抱き締めてくれる。
それはまるで、
「にい、ちゃん…?」
あの日の兄貴みたいで、
「……悪いが、俺はお前の兄ちゃんじゃねぇよ」
ぽすんと頭に乗せられた掌は、とても安心できた。
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