1.淡桃色

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藍斗、早く逃げるよ。 そう言おうと思って彼に視線を投げたけど、当の藍斗は私に本気で怒鳴られたのが相当意外だったようで、眉間に皺を寄せて口を半開きにした顔で固まっている。 この表情はモデルとしてというか、男としてどうなんだろうか。 あ、すごく写メ撮りたい。 そう思いはするけれど、なんせ今この状況。 残念ながら藍斗の間抜け面に構っている暇なんてない。 私は瞬時の判断で藍斗の骨張った腕をぐいと掴んで、そのまま猛スピードで階段を駆け上がった。 「やっば…全速力とか久しぶりなんだけど」 「……」 「…藍斗さーん?」 先生からは上手く逃げおおせたけれど、年の所為か階段を三階まで駆け上がっただけで息切れが酷い。 最近運動してないからなぁ。 肩を上下させつつ藍斗を見やると、彼はまだ意味深な顔を保ったまま、じいっと私の方を見つめていた。 ドが付く程Sの藍斗にしては、珍しいとしか言いようがない行動に戸惑わないと言ったら嘘になる。 _
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