34/40
前へ
/258ページ
次へ
先生の残り香に包まれて、陽が沈むのを眺めながら、待ち合わせした場所で夢現のまま待っていると、数分で車が停車した。 助手席のドアを開けて車に乗ると、シートベルトをするのを待って、佐伯先生は私の右手を取った。 さっきまで触れていたのに、やけに恋しいと感じる。 「ちょっと遠回りするけど、いい?」 「はい。」 見つからないようにしなければいけないもんね。 そう思うと、少しだけ切なくなる。 でも今はその方が、先生といられる時間が長くなって嬉しい。 車を走らせて坂を上った頃、佐伯先生が唐突に口を開いた。 「ところでさ、岸田にそんなに説明しなくても良かったって言ってたけど、あいつ、お前のこと諦めてくれそうなの?」 「あ…いや…その…。」 口籠る私を冷めた目で見た先生に、顔を引き攣らせた。
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!

588人が本棚に入れています
本棚に追加