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先生の残り香に包まれて、陽が沈むのを眺めながら、待ち合わせした場所で夢現のまま待っていると、数分で車が停車した。
助手席のドアを開けて車に乗ると、シートベルトをするのを待って、佐伯先生は私の右手を取った。
さっきまで触れていたのに、やけに恋しいと感じる。
「ちょっと遠回りするけど、いい?」
「はい。」
見つからないようにしなければいけないもんね。
そう思うと、少しだけ切なくなる。
でも今はその方が、先生といられる時間が長くなって嬉しい。
車を走らせて坂を上った頃、佐伯先生が唐突に口を開いた。
「ところでさ、岸田にそんなに説明しなくても良かったって言ってたけど、あいつ、お前のこと諦めてくれそうなの?」
「あ…いや…その…。」
口籠る私を冷めた目で見た先生に、顔を引き攣らせた。
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