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やっぱり私は良い子にはなれないみたい。 「俺の全部…ね。」 そう小さく囁いて、佐伯先生は右手を伸ばしシートを起こした。 …え…? 「お前は俺に抱かれたら、俺の全部が手に入ると思ってるのか?」 「……。」 「松谷は俺の何が欲しいの?」 優しく髪を撫でながら、優しく尋ねる。 「…気持ちとか、…絆とか。」 「もう、全部持ってるだろ?」 「え?」 髪の毛一束をパラリと離し、今度は頬を手の甲で撫でる。 ゴツゴツした関節とは逆に、滑らかな肌。 「お前のことは何があっても離さないって言っただろ?」 「…はい。」 「その意味、わからない?」 ──その意味? もしも私たちのことが知られてしまったら… 「教師を辞める覚悟があるってことですよね?」 「そうだけど、それは正解じゃないな。」 先生は悪戯っぽく笑うと、私の鼻をつまみ上げた。
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