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慌てて荷物を鞄に入れていると、
「松谷はちょっと残って。」
佐伯先生が窓の鍵を確認しながら、私に声をかけた。
「あ、はい。」
今日は秋山先生がお休みだから、最後の確認は副担である先生がやらなきゃいけないんだね。
「…じゃあ、先行くな…バイバイ。
先生、さよなら。」
「さようなら。
川端、気を付けて帰れよ。」
先生は川端君の後ろ姿を見送ってから、私に向き直った。
「なにか変わったことはなかった?」
「…はい、大丈夫です。」
「そうか。
送るから、待ってて。」
嘘!?やったぁ!
朝からモヤモヤしてた気持ちが、晴れていく。
「はいっ!」
浮かれる気持ちのまま返事をすると、佐伯先生にふっと笑われて、顔が熱くなった。
…恥ずかしい。
「元気そうで安心した。」
「…え?」
最後の窓の鍵を確認して、先生は私の方へ振り向き近付いて来た。
包まれた静寂に、鼓動が早鐘を打つ。
距離を詰められ、聞こえてしまいそうで、落ち着かない。
先生は目の前まで来ると、長い指先を上げた。
スッと頬を撫でる…
「…髪、噛んでる。」
夕陽に照らされ、オレンジ色の影を落とす先生の顔は、思わず時を忘れるほど目を奪われた。
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