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なんとなく居づらい雰囲気に、部屋に入ろうと頭を下げて兄の横をすり抜けた。 「圭介まで…シスコンかよ…。 あ、志歩ちゃんまたね。」 声をかけられもう一度振り返り、ぺこっと頭を下げて部屋に逃げ込むように入ると、 「可愛いなあ、志歩ちゃん。」 と達也さんが言っているのが聞こえて、褒められているのに、さっきの件も手伝ってか、怖くて仕方ない。 小さく溜め息を吐いて、ベッドに腰かけた。 佐伯先生…。 目を閉じると浮かぶ、先生の顔に安堵する。 何度思い返して見ても、先生の顔なら怖くないことが、不思議だった。 頬に触れた手の感触が、忘れられない。 あのときも、そうだったけ…。 佐伯先生が初めて私の頬に触れた日、ドキドキして眠れなかった。 …もう1年も前のことなのに、今でも鮮明に思い出せる。 思い出すたびに切なく胸が震えることには、未だ慣れないけれど。 佐伯先生にどうしようもないくらい焦がれる自分を自覚すると、体中が熱くなって、心拍数が上がって…。 大好きでたまらない自分の欲求をどこにぶつけていいのか、悩んでしまう。
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