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それでも尚、私の名前を呼び続ける。キッ!と振り向きながら父を睨んだ。
「やだっ!私だって幽霊が見えるのだけは勘弁!!そんなへんてこな物は絶対に嫌ッ」
今までだって散々、怪奇現象に悩まされているというのに、幽霊が見えたらたまったもんじゃない。
黙り込む父は見上げながら瞳を涙で溜めていた。
(……うっ)とちょっと言い過ぎたかもしれない。
「いいんだ……別に。これで父さんが教授になれなくても、千春にとってはどうでもいい事なんだもんな」
「いや……そこまで思ってな」
「いいよ別に、一生助手でも。隣で教授がノーベル賞を取るのを、笑顔で拍手してればいいんでしょ」
……。
…………。
「さっすが俺とさっちゃんの子供だなぁ!」
「……」
結局、父の頼みには断れない。
あそこまで言われれば誰だって断れないでしょ?……ねぇ!
「かければいいんでしょ」
「まァ――!!タンマッ」
渋々かけようとした時、父が慌てたように止めようとする。
傍で大声を出されて、掛けようとしていた手は止まってしまう。
「それは霊がいそうだと思った時に掛けてくれればいいから」
「いそうって、分からないよ」
「……千春」
ぎゅむっと不意に鼻を摘まれた。
小さな痛みに顔を歪めた。
「この鼻があるだろ?」
いつになく真剣な表情を見せた父は、何か知っている様子。
というか何で鼻?
「まっ、変な臭いがしたら眼鏡を掛けなさいな」
「痛い……」
パッと鼻から手を離した父は白い歯を見せながら、今度は笑顔を浮かべている。
疑問を抱きながらも鼻を片手で摩っていた私に、父はポケットから眼鏡を入れるケースを取り出す。
「さっちゃんに弁当美味かったって伝えといてくれ」
「いつ帰って来るの?」
「うー…ん。その眼鏡の成果が見られたらかな」
まじでか。
こりゃ、早く成果出さないと母さんが家出するな。
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