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「俺には夢がある」
そう言って、背中を見せながら歩いていく――。
昨日までは手を伸ばしても届く距離にいたというのに。
今は――…どれほど腕を伸ばしても、愛しいあの人の手を掴むことは出来ない。
「……っ」
涙を堪えるようにグッと唇を強く噛み締め、真っ赤になった瞳で彼の背中を見据えた。
凜と背筋を伸ばし、立ち止まらない足は振り返ろうとはしないだろう。
あの人の瞳には前に続く道程しか見えていない――…。
「――…――」
そんな彼の後ろ姿に向かって、女は静かに聞こえないぐらいの小さな声で、言葉を紡いだ。
届かない声――。
届かない想い――。
いつかこの想いが届く日が来るならば……また、貴方に逢いたい。
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