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「開発したのって、何?」
問い掛けた時に暫しの沈黙が続く。「父さん?」と呼び掛けた時、またもや電話越しから物が落ちる音がした。
《悪い!充電が切れそうだ。という事で、明日大学に来てくれ!!》
「え?明日って学校――」
言い終わる前にプープー…と強制通話終了を告げる電子音。
耳からゆっくり携帯を離す千春の蟀谷には、苛立ちから青筋が浮き上がっている。
「……なんじゃあの親父はァアアア!!!!」
久しぶりに電話してくると思いきや、用件だけを伝えて勝手に切りやがった。
しかも明日は学校だというのに大学に来いとは……それでも一人娘を持つ父親の言葉か。
※ ※ ※
「行ってきます」
靴を履いた私は整えるように爪先をトントンと玄関口でした。
後ろにはエプロンをした母親が満面の笑みで立っている。
どうして満面の笑顔を浮かべているのかというと――。
「ちゃんとあの人に愛の篭ったお弁当渡しといてね?」
「はいはい」
重箱みたいな弁当を両手で持ちながら、手を振る母親を後ろに家から出て行く。
今朝「父さんの大学行く」と言えば、止められるどころか、即座に学校へ休みの電話を入れていた。
(こんなんでいいのか?)
いくらラブラブな夫婦であっても娘の成長を妨げるなんて、他人が聞いたら羨ましがることこの上ない。
こんな積み重ねた重箱まで持たせるなんて、花見に行くわけじゃないんだからね。
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