460人が本棚に入れています
本棚に追加
タクシーを拾って大学まで向かった私は、父の居る研究室まで足を運んだ。
大きな扉を前にノックをしようと手を伸ばした時――。
「……!!」
室内から電話越しに聞いたような衝撃音が聞こえてくる。
誰かが倒れたのかもしれないと、慌てて扉を開けた。
「……や、やぁ」
「……」
「あはは」
頭を掻いて笑っている父の足元には、フラスコやら得体の知れない金属のような物が割れて散らばっている。
何かに失敗したのか父の眼鏡には少し罅(ひび)が入っていて、着ている白い白衣は よれっとしていた。
「……これ、母さんから」
何があったかなんて面倒臭いから聞かない。
とりあえず重たい弁当を近くのテーブルに置いた。
「おぉー!!さっちゃんの弁当かぁ!!」
パァ!と花が咲いたかのように目を輝かせる父は、食いつくように置かれた弁当に飛び付いた。
いそいそと弁当を開けていく父の横で、呆れたように溜め息を零す。
「でさ。試してみる開発のモノってなに?」
「これだよ」
これだよと言いながら弁当を食べている。箸を片手にご飯を掻き込む父は、何処を指し示す余裕すらないらしい。
オイオイ、普通に分からねーよ。
「あれだよ、あれ」
「……?」
口周りに米粒をつけながら少し離れた場所にある、机へと指を差していた。
促されるように視界をそっちに移してみれば、机の上に置いてあったのは、一見ただの普通の眼鏡だった。
「父さん……私は別に視力悪くないんだけど?」
「知ってるさぁ」
「じゃあなんで?」
箸を机の上に置いた父は、ポケットに手を突っ込みながら、眼鏡が置かれた机へと歩み寄っていく。
そして眼鏡を片手に持って、くるっと私の方へ身体を向けた。
.
最初のコメントを投稿しよう!