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何故僕があんなことをしなければいけなくなったのか。それは、やはりあの人の所為だった。
なるべく使いたくない手段ではあったが、仕方のないことだ。
僕には、達成しなければならないことがある。僕の全てをかけても、絶対にーー。
* * *
アブラゼミの声が、欅並木を歩く僕に降り注いでいる。
これから夏祭りに向かうであろう、親子の姿が陽炎でゆらゆらと揺れている。
僕はその夏祭りが行われる児童公園の横を通り過ぎた。
夏祭りといっても町内会が主催する、小規模のものである。
既に町内会のおじさんやおばさん、子ども達やその親で公園は賑やかになり、和太鼓の演奏が始まっていた。
朱い夕日が僕の姿を影として地面に映し出す。
地に横たわるもう一人の僕を踏みつけ、手を繋いだ親子が横切っていった。
その家族は公園の人混みの中に消えた。
ーー……。
僕を呼ぶ声が聞こえた。
無邪気な子どもの声だ。
ーー……。
でも僕の手は、空っぽだった。
気づくと、声は聞こえなくなっていた。
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