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そのまま公園を後にしようとしたのだが、僕は踵を返し、和太鼓の音が聴こえる方へと歩きだしていた。
公園に入ると、和太鼓の音が僕の心臓を強く叩いた。
薄暗い青紫に染まった世界に、数珠つなぎになった提灯の橙色が映える。
公園の内側に沿うように、焼きそば・綿あめ・金魚すくい……たくさんの屋台が連立していた。
子ども達は好きな食べ物を買い、クジ引きで当たったおもちゃで遊び、その顔からは笑顔が絶えない。
そんな子ども達の様子を僕は独り、公園の隅の、提灯の灯りが届かない暗がりのベンチに座り、ぼんやりと眺めていた。
ーー僕は、溺れていたかったのかもしれない。
彼女との思い出の、始まりの日に。
あの子と出会ってしまったのも、こんな夏の日だった。
たった独りで、意味もなく、近所の夏祭りに行った6年前のあの日。
* * *
和太鼓の音に混じり、子どもがすすり泣いている声を僕は確かに聴いた。
その子どもは、思い思いの夏祭りを楽しんでいる人々からは見えないような位置にいた。
僕に、木の影に隠れているのを覗き込まれていることに気づいていないのか、その子どもはずっと手で目をこすり、泣き止む様子はない。
僕は見兼ねて、ついに「どうしたの?」と子どもに声をかけた。
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