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子どもはビクッと顔をあげ、見開いた両の目で僕を見た。
ショートカットなので分からなかったが、小学4、5年生の女の子だった。
しかしすぐに涙が溢れ出てきて、その子はまた俯いてぐすぐすやり始めてしまった。
「大丈夫? 何かあったの?」
このまま放っておくわけにもいかず、僕はしゃがんで子どもと目線の高さを合わせた。
子どもはその後も小さく泣いていたが、やがて泣き止み、まだ震えている声で言った。
「お金……盗られた……」
「誰に?」
「同じクラスの、秋本くんと……池野くん……」
詳しく訊いてみたところ、お祭りのためにお母さんに貰った500円を、その2人の男子に奪われてしまったらしい。
その2人は今どうしているのか問うてみたところ、この子はゆるゆると首を振るだけだった。
このままではこの子が可哀想だ。
僕は自分のジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
今日バイトで稼いだ数千円と、小銭が少し。
余裕はあった。
「欲しいものある? なんでもいいよ、僕が買ってあげる」
傍から聞いてみれば、不審者に聞こえないこともないセリフだが、僕の言葉にその子は、
「ほんとに?」と今まで泣いていたのが嘘のように顔を輝かせた。
頷くと、女の子は僕の手を引き、木の影から飛び出した。
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