夏祭り

4/5
前へ
/7ページ
次へ
子どもはビクッと顔をあげ、見開いた両の目で僕を見た。 ショートカットなので分からなかったが、小学4、5年生の女の子だった。 しかしすぐに涙が溢れ出てきて、その子はまた俯いてぐすぐすやり始めてしまった。 「大丈夫? 何かあったの?」 このまま放っておくわけにもいかず、僕はしゃがんで子どもと目線の高さを合わせた。 子どもはその後も小さく泣いていたが、やがて泣き止み、まだ震えている声で言った。 「お金……盗られた……」 「誰に?」 「同じクラスの、秋本くんと……池野くん……」 詳しく訊いてみたところ、お祭りのためにお母さんに貰った500円を、その2人の男子に奪われてしまったらしい。 その2人は今どうしているのか問うてみたところ、この子はゆるゆると首を振るだけだった。 このままではこの子が可哀想だ。 僕は自分のジーンズのポケットに手を突っ込んだ。 今日バイトで稼いだ数千円と、小銭が少し。 余裕はあった。 「欲しいものある? なんでもいいよ、僕が買ってあげる」 傍から聞いてみれば、不審者に聞こえないこともないセリフだが、僕の言葉にその子は、 「ほんとに?」と今まで泣いていたのが嘘のように顔を輝かせた。 頷くと、女の子は僕の手を引き、木の影から飛び出した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加