日常

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「……嘘だろ」 夏休みが始まる一日前。教室の黒板に貼り出された一枚の紙を前にして、彼は唖然としていた。 といっても、予想はしていたことではあったのだが。 「うっわ、ウチのクラスで補習受けるのまた響だけじゃんか。 お前大丈夫か? このままだと留年だぞ、留年」 「うるさい。芳樹だって英語の点数酷かったって言ってたのに」 芳樹はへらへらと笑って、 「まあ他の教科で元は取ったからな」 と自慢げだった。 響の補習の常連は今に始まった話ではない。 この北野ヶ丘高校に入学し、始めての試験で早速彼は全教科30点前後という数字を出した。 高校一年生から現在の二年生に至るまで、試験はずっとこのような調子であった。 そのため、試験の後には必ず行われる補習に、響は毎回呼ばれていた。 「そんな嫌そうな顔すんなって。お前が一番分かってんだろ、補習に呼ばれるってこと」 「まあ、そうだけどさ」 「ならいいじゃねーか。 んじゃ、俺は部活あっから」 芳樹はひらひらと手を振って、青いスポーツバッグを肩に掛け直し、教室を出て行った。 教室の中は響だけとなった。 響は帰宅部である。部活をやる気がないのだ。 一年生の間は必ずどれかの部には属さねばいけないことになっていたので、仕方なく美術部に入っていた。 が、進級したと同時に退部した。 響は運動が特に得意という訳でもなく、唯一人よりも勝っているものが絵だった。 「お前、将来美大行けよ」と芳樹に言われるほどだ。 絵の上手さに関してだけ、クラスメイトにも一目置かれていた。 ……本当は絵をかくことも好きではないのだけど。 つまり、響は無気力なのであった。
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