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その廃墟はガラスが割れ秋の冷たい空気に満たされていた。放棄された建物らしく壁紙も剥がれ床のタイルも所々、割れていた。
男は十数人に囲まれながら、ある衝動が沸き上がっていた。何度も、その衝動に従い自身の運命を変えた。
そして組織に利用され挙げ句、消される。
しかし男の頭には一つの衝動しか無かった。目の前の獲物達に、少なくとも男の目には獲物として映っていた。熱い鉛弾を撃ち込み、その体を粉砕したい。
男は隠された殺気も全員が銃を携帯している事も感じ取っていた。外套の下に散弾銃を隠してる者まで居る。
懐の拳銃、南部十四年式を手にしてからは第六感が働くようになった。そして衝動に突き動かされるのも、その時からだった。
その前までは暴力団の構成員にしては大人しい性格だった。
一人が男を奥の部屋に入るよう促す。そこに人が隠れていた。男が部屋に入った瞬間に後ろから射殺するのが目的。
男は当然のように、それを感じ取り懐の十四年式を手にし、その人物に向け発砲した。
乾いた銃声。予期しなかった男の行動に、その場の空気が凍りつく。
撃たれた人物は眉間に空いた穴から赤黒い液体を撒き散らしながら壁に頭をぶつけ床に突っ伏せた。
それが銃撃戦の合図になった。それぞれ銃を抜き男に弾丸を送り込む。
口元を歪め男は反撃する。殺気を剥き出しにされながら笑っていた。
不出来なアクション映画のような光景になった。多数の敵を前に男が一人で立ち向かい打ち倒して行く。
多数の銃弾を撃ち、全ての弾倉を空にするとショルダーバッグからバラの弾丸を掴み出し素早く弾倉に装填する。
弾倉を十四年式に挿入。
銃声が響き渡る。男の胸部から血が滴り落ちる。
それを意に介した様子もなく笑ったまま男は八ミリ弾を薬室に送り反撃した。
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