正義が悪に堕ちる時

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刹那。 レッドとなった雄馬の背中が消えた。 そして、その向こうに居る筈のグリーンの姿も無かった。 一瞬の理解不能な空白の時間、雪奈はイエローと目が合った。 と同時に二人を逡巡が襲い、その身体の挙動を突き動かすと同時に抑えもした。 お互いが敵かどうか分からない。一緒に来た者同士が戦い始めたが、二人は元々仲間だ。 お互いの主張が分からなかった。 そしてそんな逡巡も一瞬で消し去るように、二人の間に突然現れたグリーンが背中から地面に激突した。 余りの勢いに風切り音と衝突音が同時に二人に届く。 そして再び、雪奈の前に紅の背中が舞い戻っていた。 超人的な身体能力をもつ正義の雪奈にも、二人の動きは全く見えていなかった。 「…雄馬…何を?」 「空中で5回殴って踵落とししただけだ。スーツの上からじゃ大して効かない」 攻撃した雄馬の声は沈んで雪奈にしか聞こえていなかっただろう。憎々しげに立ち上がるグリーンを、レッドはただ見つめていた。 「…何しやがる…」 グリーンのスーツにははっきりと、雄馬の足形が所々に刻まれていた。踵落としを受けたらしい左肩が、歪んで異様に見えた。 グリーンはその左肩を右手で抑えて庇いつつ、レッドに鋭い眼光を向ける。 あからさまな敵意が空気を伝わって、肌を灼いている気がした。 「仲間に向ける力は正義じゃないだろ…」 「その通りだ。私が心の訴えに倣うなら、私は悪だ」 グリーンの言葉も受け止めて、レッドは悲しげに頷いた。 「お前が正義だと言うなら、私は敵だ…。倒せるなら倒せ、正義の元に」 グリーンとイエローの舌打ちを聞きながら後ろに立つ雪奈には、何も出来なかった。
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