正義が悪に堕ちる時

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最上階の5階まで上って、やっと二人は立っている人間を見つけた。 屍の上に立ち、全身を緑に染めたスーツを着た男は、見慣れた風貌で振り返った。 「……グリーン」 「お、リーダー。遅かったな」 笑顔で気軽に話すグリーンだが、二人は彼の右手の先ばかりを見ていた。 見知らぬ男の顔面にアイアンクローを決め、握力だけで男を宙に浮かべている。ぶらりと垂れ下がった男に最早抵抗する力も気力も無く、その手に握った携帯が妙に物悲しく揺れていた。 「見てくれよ、リーダー。ついに俺達はやったぜ!」 そう言ってグリーンは男の顔を此方に向けた。 やはり見知らぬ男だ。 中年のがっしりとした男だが、どう見ても気絶している。 ただ、二人にはその男に全く思い当たる節が無いわけでは無かった。 「それって…もしかして…」 雪奈の声にグリーンは嬉しそうに、にっと笑った。 「もしかしなくても悪の組織のリーダーさ!ピンク、歴代の正義のヒーロー達が出来なかった事を俺たちは成し遂げたんだ!!」 熱く語るグリーンはその半死半生の男を勲章のように見せつけてくる。輝くのは流れる生々しい色の鮮血だけだ。 「何年も何十年も正義の俺達の手から逃げ続けたこいつらの親玉を、遂に俺達は倒したんだ。これは正義史に残る大事件だぜ!」 その何十年と存続し続けた悪の組織のリーダーは、最後には正義に助けを乞い、命を乞いた。正義を狂っていると言いながら、正義に助けを求めたのだ。 恐らく、雪奈が予想している通りに雄馬は考えているだろう。 この部屋に“正義”は居ない。
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