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この場所の変な噂とはまさかこの事だったのか。祐樹は今になってこの場所に来てしまった事に後悔し、恐怖していた。
音はいつしか止んでいた。それは祐樹も流石に気付いている。だが祐樹はまだこの場所に残っていた。正式には動けないでいのだ。
「……刀が交じりあうような音……」
体の震えは止まっていた。そして今は驚くほど落ち着いている。その場で立ち上がり周りを見渡した。
変わらない教室からの騒ぎ声、廊下を走る足音、そしてグラウンドでは元気に走り回っている生徒をポツポツ見かける。唯一、音などに敏感な鳥達は屋外にいたからか、祐樹同様驚き、逃げていったようだ。
どうやら自分以外はみんなあの音に気付かなかったらしい。
「……なんなんだよ……クソ!」
無性にイラついた。
何故かと聞かれれば、即答することは難しいだろう。だが確かにイラついた。
そして祐樹は急に走りだす。一人でいたくなかった。誰でもいい、傍にいなくてもいいから、誰かこの事を何も知らない人が見たかった。
この時の祐樹はまだ知らない。
あの音を発していた主を。
そして、これが祐樹の『ずれ始めた運命』の始まりの一部だという事を。
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