万谷さんの叫び

あの日、腫れた顔

私は彼女と恋愛関係にはない。
少なくとも、私の方ではそう認識してはいない。

仲のよい友人の一人である事は認めるが、それ以上でもそれ以下でもない。

なぜなら、彼女には十も歳の離れた恋人がいた。相手に会った事もあるし悩みの相談にものった。

｢こないだ、別れてん。しばらく淋しいから、代わりに付き合ってや｣

いつもと変わらない冗談だと思った。
だから、こちらも冗談で応じた。
ただそれだけの事。

彼女はその後すぐに別の年上の男性と恋仲になり、本当に愚かな私は、彼女の本心に気付くことはなかった。

ただ、鬱憤を晴らす道具に使われたと、ヒリヒリする顔の右側に憤るだけだった。

卒業後、人伝に彼女が交通事故で亡くなった事を聞いた。

｢お前があん時、付き合ってれば、人生変わってたかもなぁ｣

コラコラ、その言い方だと、私が彼女を事故に遭わせたようではないか。人聞きの悪い。

最近まで万谷さんと近しかった彼は、生前彼女が私に対して抱いていた感情をこう評した。

愛していたと。