序章

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そんな話をどうやって理解しろと言うんだろう。 人は誰しも皆、憎まれるよりも愛される方が嬉しいに決まっている。 真逆の感情論を説かれたところで「そうですか。」なんて言えないのは当然だ。 少女も例に漏れず、ムジカの心意を図りかねている状態だった。 多分それは、表情に表れていたと想う。 だからこそ、ムジカは更に距離を詰めるように前のめりになったのだから。 「最初は単に暇潰し程度に傍に置こうと思っていたんだが、君のその瞳に宿る感情が私を楽しませてくれる。 憎悪と言うには程遠いが、私を嫌い拒む姿が愛らしい。 だから、ねえ―――。 君の憎しみを更に煽ったなら、どれ程愛しく思えるんだろうかと試してみたくなる。」 最早、理解するなど不可能だ。 己の持論を垂れ流し、自らの好奇心を満たすためだけに少女を玩具にすると宣言しているかのだから。 そんな事を許すわけにはいかない。 少女は渾身の力を込めて体を捻り、自らの上に居座るムジカの下から抜け出そうと試みる。 けれどそれは容易ではなく、ムジカの心情を煽るだけの結果になってしまったようだった。 「まだ諦めてはいないようだね。 それでこそ、―――……。」 その先の言葉が、少女には聞こえなかった。 ムジカが告げた言葉が、音が、全て断絶したような感覚。 足掻く少女の左目に手かざしたムジカは薄笑いを浮かべ、流れ落ちるモヤが、ぞぷ、と音をたてて少女の左目を侵食しはじめた途端の出来事だ。
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