序章

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空中に浮いた女は玉座に腰掛けるように体勢を変え、膝の上に置いた人間の頭部を愛しげに撫でていた。 「見てご覧、この光景を。 混沌(カオス)と化したこの世界の中、生に執着してあがく有象無象が滑稽じゃないか。 死を覚悟して私に挑んできたのだろう? 其れなのに死を前にして恐怖に慄くなんて、君達の覚悟とやらもたかが知れてる。 君もそう思うだろう。 ――――……ねえ?」 艶然と微笑みを浮かべる女は手にした頭部に口付けた。 返事を返さぬ頭部に向けた言葉だったのか、己を憤怒の形相で見つめている騎士へと向けた言葉だったのか、喉を鳴らして笑う女は瞳を細めてみせる。 「貴女は思い違いをしておられる。 彼等は覚悟を決めていました、貴女を道ずれにしてでも倒すと。 誰一人として貴女に背を向けた者は居ない、己のもてる全てで貴女を滅すると誓った者達を――――愚弄しないで頂けますか。」 暴発しそうになる怒りを抑え、硬く拳を握り締めて話す騎士に漸く女は視線を投げ掛ける。 「おや、これは驚いた――…。 少年だとばかり思っていたが、君は女だったのか。」 ラズベリーピンクのショートヘア、キツい印象を与える銀色の双眸、そして中性的な面立ちは少女を少年と認識させるには十分だった。 それに加えて白を基調とした騎士服とマントを着用している為、体の線を隠してしまうから余計に。 少女にしては些か低い声も判断材料の一つにはなるのだろうが、戦いの最中に所々破れてしまった服の所為で微かに覗く曲線が其れを認識させる。 「憤怒と憎悪に彩られた今の君は、美を象徴する女神よりも美しく神々しい。 叶うなら、君を私のコレクションにして飾っておきたい程だ。 私が飽きるまで傍に置いてあげよう。 鳥籠の中で愛でられるのは如何か。」 愉快そうに笑う女を見つめる少女は、視線だけで人を殺せるのではないかと思えるほどの表情を浮かべていた。 「笑えない冗談ですね。 貴女の手に堕ちるなど、考えただけでもおぞましい。 私が貴女の傍に行く事など、決してありえない!」
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