序章

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唸るように吼えた少女に女は満足げな微笑みを浮べていた。 色の無い唇を軽く舐め上げる様子は、さながら獲物に狙いを定めた肉食獣のようにすら見て取れる。 「私を拒むのか、騎士殿。 満身創痍の君がさて、一体どうやって私に楯突くと言うのだろう。 今の君は立っているだけでも辛いように見えるのだけれど。 私が力尽くで君を攫ってしまうのは至極簡単、けれど君が私に抗うのは難しいように想うがね。 私の元で、私の為だけに生きていけば良い。 そうすれば殺さないでいてあげようじゃないか。」 「私の言葉は貴女には届きませんか。 それとも、ご自分に都合の悪い事だけは聞こえませんか。 どちらにせよ、貴女の願いを叶える気はありません。 貴女に殺された仲間の為にも、大人しく弄ばれるつもり無い!」 少女は言葉と同時に長剣を構えるも、上空に居続ける女にはどうしたって届かない。 それを理解しての今の行動は、自らの信念を貫き通すとの意味合いを込めての事だ。 女は艶然と微笑みを浮かべると、一度大きく翼を揺らめかせて地上に舞い降りた。 手にしていた頭部を足下に落とし、そして何の躊躇いも無く踏み潰す暴挙に出る。 息を飲む音は少女の、ぐしゃりと潰れた音は屍の、そして場違いな笑い声を上げたのは女だった。 「己の立場と言うものをわきまえていないようだね、君は。 嗚呼、けれどそれすらも好ましく感じるよ。 否、寧ろ愛しいとさえ思えてしまう。 自らの言葉がどのような結果を招くか分かっていて、君の気持ちは揺らがぬのだから。」
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