序章

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「…く、ぅ!」 苦悶の表情を浮かべ剣を握り直そうとするものの、弾き飛ばされた途中で落としてしまったようである。 その事実に悔しそうに表情を歪めた少女は女を見上げると、許しを請うような無様な真似だけはしたくないと、その瞳が語っていた。 「――――…ふ。 私が憎くて堪らないかい。 殺してしまいたい程に?」 「い、…ッ…ま、すぐに……貴女を滅ぼせるの、なら…ゥ…ッ、…どんなに喜ばしい、………事でしょう、ね。」 「ならば、私がその力を差し上げると言ったなら、君は迷わず飛び付くんだろうか。 弱者で在り続けるのは辛いだろう? 誰かに翻弄されるのは悔しいだろう? 何も成せずに朽ち落ちて逝くのは呪わしいだろう。 我が身の無力さに嘆くぐらいなら、差し伸べられる何にでもすがり付きたくなるのが人間だ。 意地もプライドもかなぐり捨ててしまいたくなる事は、決して卑下するような事じゃない。」 毒だ。 女が告げる言葉は甘い毒だ。 耳を傾けてはいけないと、頭の中で警鐘が鳴り響く。 けれど抗いがたい何かが其処にはあった。 この魔物を倒せるだけの力が欲しいのは嘘じゃなくて、殺された仲間の仇を打ちたいのも間違いない真実。 女の言葉に惑わされるな、と頭の中で冷静なもう一人の自分の声が聞こえるような気がした。 そんな少女の葛藤を知ってか知らずか、女は蕩けるように甘い微笑を浮かべて、手を差し伸べてきたのだ。
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